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ぼんやりと意識が浮上する。爆睡明けの時のように脳内を覆っている霧が時間が経つごとにゆっくりと晴れていく。
目を開くと真っ白な布地がすぐ目の前に見えた。どうやらマットレスに倒れこんだまま気絶していたようだ。
「う、うぅ……」
だるさが残る身体をのろのろと動かして起き上がる。どのぐらい寝ていたのだろう。近くにあったスマホを手に取ってみると電源が切れていた。
「あの痛みはなんだったんだ……」
脳を突き刺すような痛みはもう感じられない。それどころか不思議と全身に活力が溢れ思考も以前よりよく回る気がする。
『おはようございます、マスター。体調に問題はありませんか?』
「その声は……ぐっ、フォーか……。体は大丈夫だ、むしろ不自然に思えるぐらいすっきりしてる」
『そうですか。それは良かったです』
いつもと変わらないマシンボイス。聞きなれたその声は耳元で囁かれているようでもあり遠くから話しかけられているようでもある。
まぁ実際は設置してあるスピーカーから流れてきているんだけどな、と天井を見るもこの部屋には設置されていなかった。おや?と思いスマホを見てもやっぱり電池切れだ。
『……?どうかされましたかマスター?お持ちの携帯端末は単に電池残量がないだけで故障してはいませんよ?』
「うおっ!?フォー!お前どこから喋ってるんだ!?」
幻聴ではなく確かにフォーの声が聞こえる。だけどいま俺の周りには音声を出力できる機器は一つもない。いったいどこから彼女の声は聞こえてるんだ。
『マスター、私は今あなたの脳内に直接話しかけています』
「えぇ!?」
そんなコピペみたいなことをサラッと言うんじゃない!リアルに言われると思ったよりぞわっとしたぞ。
まさか変な機械でも埋め込まれたのだろうかと思い両手で頭をがしがしと触ってみるも弄られた痕跡は見つからない。
『先ほどマスターのプレイヤーレベルが規定値を超えましたので【ヴィスカム・ドミネーター・システム】がマスターの脳にインストールされました。これからは電子機器を介さずに私と会話することが出来ますよ』
「はぁ!?勝手に俺の脳を弄るな!人間の脳みそはスマホみたいにアプリを入れたり消したり出来るわけじゃないんだぞ!!」
『自分のコピーを作ると言っていた人の発言とは思えませんね。別にいいじゃないですか。マスターの人格に影響はないのですから』
ほ、ほお?なかなか言うじゃないかこいつ。以前よりも一段と無礼になったというか、遠慮がなくなった気がするぞ。
あくまで俺のサポートに徹すると言っていた彼女はどこへ行ったのか。今は自分の都合を押し付けてくるというか……いや、それは前からk『聞こえていますよ』
「うおっ!?無断で俺の思考を読むなよ!」
『マスターが私にも聞こえるように思考を垂れ流していたのが悪いんですよ。聞かれなくないのでしたら自分にだけ聞こえるように考えてください』
「無茶言うな!いままで脳内の声なんて意識したことなかったんだぞ」
脳内のフォーとぎゃあぎゃあ言い合っていると、その音で目が覚めたのか倒れていた命と八重が起き上がってきた。
まずい、一人で話しているのを見られたら頭がおかしくなったと思われそうだ。
『それについては問題ありませんよ、マスター』
「なに?」
「おはよう烙君♡」
「おはようございますご主人様♡」
フォーに問いただそうとしするとそれを遮るように二人がにっこりと笑いながら話しかけてきた。あれだけ大きな声で独り言を言っていた俺を訝しむような様子は見られない。気づいていないわけはないと思うんだが……
「お、おはよう二人とも。けっこう激しく抱いたけど身体は大丈夫か?」
「はい、特に不調は感じません」
「むしろしっかり抱いてくれたおかげで調子がいいくらいよ♡」
頬に手を当てる命の顔を見るとたしかに数歳ほど若返ったような気がする。隣でコクコク頷く八重も以前より肌がつやつやしているみたいだ。セックスをすると女性ホルモンがどうたらと聞くがその効果だろうか。
「こんなに身体が整うんならもっと頻繁に抱いて欲しいわね」
「ははは……まぁしばらくは忙しいからまた時間ができたらかな」
「そうなのですか?ご主人様のいない間はもう一人のご主人様に犯していただけると思っていたのですが」
八重が何気なく口にした言葉に凍り付く。もう一人のご主人様?なんだ、なにを言っている。
「あら、八重ちゃんもそのつもりだったの?抱いてもらえるのは変わりばんこになりそうね」
「いえ、もう一人のご主人様は意識だけのようなのでやり方によっては複数人を同時に抱けるのではないかと。それこそ夢の中にまとめて抱いていただくとか」
「確かにそうね!さすが八重ちゃん、頭の回転が速いわね」
きゃっきゃと歓談する命と八重が俺にはとてつもなく不気味に見える。まるでガワはそのままに中身がまるっと入れ替わってしまったかのような、前の二人とは根本からチガウものになってしまったかのような。ぞっとする怖気に背筋が凍る。
「フォー!どういうことだ!!なんで二人が自己複製機について知っている!?」
『落ち着いてくださいマスター。この二人はさきほどVDに関する知識とあなたのこれまでのプレイを知りました。なのでマスターがご自身のコピーを作ることも知っているのです』
「VDの知識と俺のやってきたことを知った?誰が二人に教えたんだ!?」
俺はゲームのことについて彼女たちに何も話していない。まさかフォーが伝えたのか?いったいどうやって……
『順を追ってご説明します。彼女たちがVDについて知ったのは第三陥落を達成したからです』
「第三……陥落?最後の攻略段階のか?」
ヒロインの陥落には三段階がある。第一段階は肉体の、第二段階は精神の陥落が必要と説明には書いてあった。しかし第三段階については何を陥落させればいいか書いてなかったので後回しにしていたんだが……
「いつ達成したんだ?」
『つい先ほどです。マスターが彼女達を行った性行為の中でそれぞれの陥落条件を満たしました。それによって弘前命・十和田八重の両名は第三陥落に至りました』
「それぞれの?条件はヒロインによって異なるのか?」
『その通りです。第三陥落は魂の陥落、身体や精神と違い魂の在り方は人によって違います。したがって陥落の条件もヒロインによって異なります。陥落後の今でしたら二人の第三陥落条件を確認できますよ』
「ふーん……」
言われるままに確認しようとするもVDにアクセスできる端末がなかった。携帯は電池が切れてるしPCはマスタールームにしかない。
あとで確認するかなと考えながら命を見つめていると何もない空間に文字が浮き出てきた。
【弘前命 第三陥落条件(達成済み):他の人間と比較できない程に彼女から愛されること】
なるほど、この条件を満たしたから第三陥落が達成できたのか。それなら納得だ……なんて冷静に考えている場合じゃない!
「なっ!?」
ゲームのテキストウィンドウのようなものに俺の視線は釘付けになる。目がおかしくなったのかと思いごしごしと擦っても表示される文字は消えない。
なんだこのウィンドウは!?あわてて八重を見ると命のとは異なる文章が浮かんできた。
【十和田八重 第三陥落条件(達成済み):自分の性癖を認めた上で愛してくれる人がいると理解させること】
「フォー、これはどうなってるんだ。いつの間に俺の目はヴァーチャルな世界が見れるように改造されたんだ……?」
『そんな大それたことしてませんよ。マスターの視界に文字が映るようにVDが脳へ情報を送ってるんです。これもアクセス権限の恩恵ですね』
「つまりアニメやマンガで見られるホログラフィックな画面が見れるようになったってことか」
『……まぁそういうことです』
ならもっと他の情報も見てみたいな。さっきは「こんな情報が見たい」とおもった時に出たから俺が望みさえすれば表示されるんじゃないか?
(拠点の管理画面よ、あらわれろ!)
そう念じるとSFチックなアニメーションを伴って見慣れたウィンドウが目の前に現れた。
「おおっ!念じるだけで出てくるんだな。設備の一覧もちゃんと見れるじゃないか!……いつっ!」
設備のリストを勢いよくスクロールしていると突然頭に針が突き刺さったような痛みが走った。ちくちくと刺すような痛みに意識を持っていかれていると視界に映っていた画面は空気へ溶けるようにして消えていった。
『受け取った情報を処理して視界に映しているのはマスターの脳です。そのため許容量以上の負荷がかかると処理落ちが発生し脳にダメージがいきますよ』
「低スペックのパソコンでクソ重い3Dゲームをやった時みたいだな。人間の脳はそこらのPCより高度な処理ができるって聞いた覚えがあるんだけど、もしかして俺の脳って平均以下?」
『使い慣れていない箇所を稼働させているせいだと思いますよ。マスターのスペックがそれほど高くないのも一因ではありますが』
な、るほど。こういう展開なら持ち前の才能で人一番に使いこなせるんじゃないかと思っていたんだが、あいにくそんな都合の良いことにはならないようだ。
残酷な現実にがっくりと肩を落とす。まぁしょうがない、さっさと話をもとに戻そう。
「取り合えず二人が第三陥落したことはわかった。話の流れから察するに第三まで堕ちたヒロインはゲームについて理解するってことであってるか?」
『ええ、その通りです。陥落が完了したヒロインはプレイヤーの助力を行えるようにVDに関する知識がインストールされます』
「今まで以上に手駒として使えるようになるってワケか。ちなみに知識を直接ヒロインの脳に書き込むのはどうしてなんだ?プレイヤーが教えてやればいいようにも思うんだが」
『そこはほら、あれです。ゲーム的な概念を全く持っていない人もいますから』
「あぁ……そうか。口で説明してもわからない人もいるのか」
言われてみれば当たり前だな。女性だとゲームに全く触ってこなかった人も珍しくない。拠点やEPについて説明してもそう簡単には理解してくれなさそうだ。
『以降に攻略するヒロインたちも第三陥落を達成した際にVDに関する知識がインストールされます。なのでもし彼女たちにゲームを理解をさせたい場合は時間をかけて説明するより攻略を進めた方がはやいかもしれないですね』
「確かにな。簡単な説明だけなら口頭でもいいがキチンと理解してもらうにはそっちの方が早そうだ」
中途半端に理解されると思わぬトラブルに繋がる気がする。第三陥落まではゲームに関わらせないようした方がいいかもな。
「ところで一つ聞きたいことがあるんだが……」
『なんでしょうか?』
「さっき言ってた【ヴィスカム・ドミネーター・システム】って何だ?初めて聞いた単語だが」
フォーの声が聞こえることに驚いていた時、彼女はそのシステムが俺の脳にインストールされたと言っていた。いったいなんなのだそれは?
『【ヴィスカム・ドミネーター・システム】はマスター専用に調整されたVDのアップグレードパッケージです。ダウンロードコンテンツのようなものと捉えていただくのが良いかもしれません』
「お、俺専用のDLC……!?」
な、なんだそれは……プレイヤーひとりの為に調整したコンテンツまで作るのかこのゲームは!?いや冷静に考えたら既にマンションの一部屋が俺のために借りられてるから今更だな。
『専用といっても現時点における内容はVDに直接アクセスするための接続機構とマスターのプレイスタイルを参考に作成したスキルの2つだけですけどね』
「俺のプレイスタイルにあったスキル?」
『スキル欄の一番上に追加されているはずですよ、ご確認ください。』
急いでスキル一覧を視界に表示させる。あらわれたリストを見ると確かに新たなスキルが追加されていた。しかも文字色や背景色が他のと異なっている特別仕様だ。
『★宿木の支配者』
【非公開情報】
「なんだこのスキル!?」
効果がまるまる見えない!これじゃあどんな効果かわからないじゃないか!専用スキルと聞いて跳ね上がったテンションがガクッと落ちる。
「フォー……このスキルはいったいどんな効果なんだ?」
『ふふふ、そう焦らないでください。このスキルの詳細はまた後日に解放いたしますので』
「……わかったよ」
しぶしぶ頷く。彼女がこう言うってことはいまは教えなくても良いタイミングということだ。俺にこのスキルが必要な時が来たら教えてくれるだろうからその時を待とう。
聞きたかったことは大体わかった。第三陥落についてはもう少しいろいろと試してみたいが、それはここに残る『オレ』に任せよう。
俺には他にやることがある。新しい拠点を攻略するという目標が。
十和田マンションでやりたいことは大体やり終えたから明日にはもうここを出ていこう。だけどその前に二人にはちゃんと伝えておいた方が良いかな。
「命、八重、あー……」
「なんですか?ご主人様」
「どうしたの?烙君」
区切りを付けようとする俺の口は続きを促す二人を前にして言葉を継げないでいた。
なんていうべきだろうか。二人はコピーのことを知ってるからお別れの挨拶は合っていない気がする。かと言って何も言わずにコピーに任せるのはなんだか癪だな。
少し考えて俺は素直な気持ちを言うことにした。きっとシンプルな言葉が一番気持ちが伝わるから。
「いままで楽しかった。これからもオレをよろしく」
「えぇ、よろしくね♡」「はい、もちろんです♡」
笑顔で頷く二人。そうだ、彼女たちにとっても俺にとってもコピーとオリジナルの区別は必要ない。別たれた意識は全く別のものになるまえに統合されてまた一つに戻る。だから『オレ』も俺も常に俺だ。
彼女たちと俺は別れるわけじゃない。悪墜ち浮気人妻、淫乱露出管理人、そしてこの十和田マンションに住む女たちとはこれからもずっと身体と心を交えていくんだ。
「さてと、じゃあ準備しないとな」
◇
「烙君、気を付けてね」
「何かあったら無理せず戻ってきていいのよ」
「命さん、八重さん、ありがとうございます」
エントランスまで見送りに来てくれた二人に礼を言う。いまは外なので以前のような丁寧口調だ。打ち砕けた言葉遣いはセックスする時だけに使う方が興奮するからな。
「よいしょっと……」
背負ったリュックのずっしりとした重さが長い旅の始まりを感じさせる。かさばる私物は全部マスタールームに置いてきたとはいえ、タブレットやらバッテリーやらを入れているのでそこそこの重量がある。
こんな重い荷物を持って歩き回るのはちょっと辛いな。次の拠点探しは荷物を置いてから始めよう。
「そういえば烙君は明日からどこに泊まるの?」
「……」
確かに、そういえば決めてなかったな。言われるまで気が付かなかった。あれ、まずくないか?特に考えてなかったけど俺は明日からどこで寝泊まりすればいいんだ。
そもそも他の拠点を攻略するにしてもここから通えば良かったような気がする。出ていかなくてもよかったんじゃ……
「……えっと、取り合えずは友達のところに泊めてもらおうと思ってます」
「あら、お友達とお泊りだなんて楽しそうね」
「ハハハ、ソウデスネ」
乾いた笑い声で命に相槌を打つ。残念ながら当日に泊めてくれるような友達なんて俺にはいない。
『いいんですか?下手に見栄を張らないほうが良いかと思いますが』
(いまさら「やっぱ残ります」なんて言えるわけないだろ!)
あれだけ旅立ちムードを醸し出した後でそんなこと二人に言ったら恥ずかしすぎて悶え死ぬわ。取りあえずはネカフェにでも入って行先を決めよう。
「えっとじゃあ……いってきます」
「「いってらっしゃい♡」ませ♡」
笑顔で手を振る二人に頭を下げてから俺は外へ歩き出す。先行き見えない未来への不安はあるものの、それを上回る好奇心と興奮に俺の足は自然と速くなる。
「次はどんな所を攻略しようかな」
『付近にある候補地をお出ししましょうか?』
「いや、いいよ。事前知識ゼロの方がワクワクするから」
オープンワールドの醍醐味は探索にこそある。決まった行先に向かうのもいいが、個人的には目的地もなくふらふらと歩き回るのが一番楽しいんだ。
『……ふふ、承知しました』
「よしっ、じゃあ取り合えず街中をぶらぶらしながら良さそうな拠点を探すか。行くぞフォー!」
『えぇ、行きましょうマスター!あなたが挑む次のステージへ!』
期待に胸が弾む。次はどんな拠点を攻略しようか、どんなヒロインと出会うことができるだろうか。ゲームはまだ始まったばかりだ。
青年は走る。好奇心と欲望の二つを胸に抱えて。
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