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ガチャ
「おかーさーん、ただいまー」
「っ!」
玄関から少年の声が聞こえてきた。我に返って時計を確認すると12時を過ぎていた。
まずい、息子君が帰って来たようだ。
「命さん、命さん。起きてください」
頬をぺちぺちと叩くも反応は返ってこない。彼女を起こそうとしている間も足音は段々とこちらに近づいてくる。
「取りあえず隠れないとっ……」
掛け布団を命に被せて自分もその中に潜り込む。俺の身体が完全に隠れて数瞬もしない内にガチリっと扉の開く音が鳴った。
「おかーさん、寝てるの?」
頼むそのまま戻ってくれと祈るも息子君はベッドの横まで来た。口元を手で押さえて呼吸音を抑える。
ぐっ、どうする。息子君が動かない限り俺もここから出られない。でもあまり長時間いると布団の膨らみを不自然に思った息子君に捲られるかも……
(まずい、詰んだか?)
『お困りですか、マイマスター』
計ったようなタイミングでスマホ上にメッセージが表示された。さっきのなんちゃらAIからのメッセージだろうか。空気を読んで音声からチャットに切り替えて話しかけてきている。
『ヒロイン1名を第二陥落した事によって実績が一つ解放されました。これにより新たにスキルを獲得できます。この状況を打破できるスキルもあるみたいですね』
なに?そんなちょうどいいスキルが貰えるのか。なんだか都合のいい展開で怖い気もするが取り合えずは見てみよう。ステータスを開くと三つのスキルからひとつを覚えることができるようだ。
『理性融解 Lv1』
対象の理性を【20%】減少させる
Lv1:【『ヒロイン』のみ】を発動対象とすることができる。
『電子隠密・カメラ Lv1』
能力発動後【10分間】カメラにプレイヤーの姿が映らなくなる。
Lv1:【プレイヤーの肉体のみ】がカメラに映らなくなる。
『緊急静止 Lv1』
対象から能力発動前後【5】秒。合計10秒の意識と記憶を消失させる。
Lv1:【『ヒロイン』以外】を発動対象とすることができる。
(おぉぉぉぉい!これはちょっと酷くないか!?)
なーにが都合の良い展開だっ!歯をギリギリと食いしばって漏れだしそうになる文句を必死に抑える。実質一択の癖に他の選択肢が魅力的過ぎるだろ。嫌がらせか、嫌がらせだなこれは!
『理性融解』はシンプルに使いやすい、ヒロインを攻略する上で取りあえず使っておけばいい便利スキルだ。
『電子隠密・カメラ』は応用ができそうだ。自分の身体のみが効果範囲という制限はあるもののこの能力を使えば色々な悪いことが出来るだろう。
それに対して『緊急静止』は使える場面がとても限定的だ。記憶を消せるのが10秒しかない上に発動できるのがヒロイン以外と来ている。
正直、浮気中に旦那が帰ってきた時ぐらいしか使える場面が想像できないスキルだ。まぁつまりいま起きている問題を解決するにはピッタリなわけなんだが。
こんな状況でなければ上二つのどちらかを取っていただろう。でも今、この危機を乗り切るためには……
(これを選ぶしかないな、わかってたけど)
葛藤に震える指で取得するスキルをタップする。【『緊急静止』を取得してよろしいですか?】という確認にイラッとしながら【はい】を押す。
輝くエフェクトが表示され終わった後のスキル欄には俺が所持している二つのスキルが表示されていた。
(よし、じゃあ行くぞ)
口から手を外しふぅと息を整える。使い方はスキル詳細を見て覚えた。後は対象を捉えて発動するだけだ。
「……?誰か中にいるの?」
ごそごそと動く布団を見た息子君はそう言って布団を捲ろうとする。
彼の手が捲り上げるよりも早く俺はばっと布団を剥いでスマホの画面を彼の目の前に突き出した。
「【止まれ】っ!」
息子君の目から光が消えた。これからの数瞬、彼の意識は全て取り零す。
残り五秒――
纏めた服を抱えてダッシュ、わき目も降らずドアへ向かって走り出す。バタバタと響く足音を気にせず玄関に向かいドアノブにかじりつく。
緊張でぶるぶると震える手でなんとか鍵を開けた俺は転がるようにして玄関から飛び出た。
「はぁっ……はぁっ……」
体感だとたぶん玄関を出る直前で5秒が経ってしまった。ドアを閉める音が息子君に聞こえてしまった可能性がある、悠長に立ち止まってはいられない。
脱いだズボンのポケットから鍵を取り出して自分の部屋のロックを開ける。
部屋に入った俺がドアを閉めたのと隣の部屋からドアが開く音が聞こえたのはほぼ同時だった。
「誰かいるの?」
そんな声が廊下から聞こえて来た。口を抑えて声を殺す。しばらく返事を待っていた息子君は誰もいないことを確認すると家に引っ込んだ。
どうやらバレなかったみたいだ。ガチャリと鍵を回して裸のまま床に崩れ落ちる。
「廊下に誰もいなくて助かったな……」
はぁ……と魂が抜けてしまうほど大きなため息が口からこぼれた。次の逢瀬は余裕をもって帰ろう……
「さて、まずはお前について説明をしてもらおうか」
さっとシャワーを浴びて部屋着に着替えた俺はテーブルに立てたスマホに向けて問いかける。
『私については先程ご説明した通りですが?』
「あんな状況で冷静に聞けるわけないだろ。もう一度頼む」
イライラを抑えながら尋ねた俺に『なるほど、では改めて』と言ってAIは再び自己紹介をした。
『私はプランニングAI【フォー】です。これからあなたのゲームプレイをサポートさせていただきます。よろしくお願いします』
「プランニングAI?聞き馴染みがないな」
『この肩書は【プレイヤーの要望を伺ってゲームの進行を計画する】という私の役割に則って名づけられたものです』
「あぁなるほど。だから計画するAIってことね」
意味は理解した、英語を使ってる割りにスタイリッシュじゃない名前だとは思うが。つまりフォーはやりたいことを言えば達成するための道筋を考えてくれるAIなんだな。道行く女性をレイプできるようになりたいって言ったらおすすめスキルを教えてくれるんだろうか。
「色々聞きたいことはあるんだが、なんであのタイミングで話しかけてきたんだ?インストールしてすぐじゃなくて」
『私がサポートするのにふさわしいプレイヤーであると判断されたからですね。第二陥落を達成できないプレイヤーは将来性がないとして正式にゲームに参加することが出来ない仕様となっています』
ふむ、正式にゲームに参加できないというのは不思議な言い回しだ。フォーが話しかけて来る前からスキルは使えていたが、あれでもまだ正式に参加していなかったのか?
「フォーが来てくれる前からスキルは使えたけどあれでも非正式だったのか?認められたこの後はもっと便利になるとか?」
『正式参加の前後でゲーム内容に変わりはありません。プレイヤーが継続してVDをプレイすることが認められたというだけの違いです』
「継続してプレイすることが認められる?まるで認められなかったプレイヤーは途中で脱落するみたいな言い方だな」
『はい。規定期間を過ぎても第二陥落を達成できなかったプレイヤーはVDに関する記憶消去の後にアプリが強制アンインストールされます』
「えっ」
想像より数倍バイオレンスな回答だ。記憶消去なんてさらっと言うなよ。グラサンをかけたスーツ姿のエージェントなんて来なくていいからな。
落ち着け、まずは現状の理解を進めないと。フォーの説明からすると機能的にはゲームプレイの最初からちゃんと使えるものの、条件を満たせないまま時間が経つと強制的にプレイ権限を剝奪される仕様だったらしい。
(下手したら俺もそうなる所だったな……あっぶねぇ……)
プランを二つ考えていた時に「プラン2:他ヒロインを攻略する」を選んでいたら俺もプレイ権限をなくしていたかもしれなかった。
知らないうちにあわやゲームオーバーになっていたことに気づいた俺の額を冷や汗がたらりと流れる。少なくとも今は正式プレイヤーと認定されたようだから安心だな。
(でも今後も似たような選別が秘密裏に行われそうだな。ゲームのプレイスタイルには要注意だぞ)
口に出さないまま気を引き締める。このAIは聞かれたことにはちゃんと答えるが、だからこそ聞かれなかったから説明しなかったと平気で言いそうな雰囲気がある。あまり無条件に信用はできない。
「結構プレイヤー層を絞ってるんだな。運営側としては少なくとも第二陥落まではして欲しいという意図があるのか?それとも拠点制圧の為に必要な行動を取ることが重要なのか?」
『後者の認識が正しいですね。VDの主目的はあくまで【拠点の制圧】です。ヒロインを広く浅く攻略するプレイヤーは我々が求めている人材ではありません』
これは何かの実験なのか?あまりにもプレイヤーを選別する意思が見え透いている。フォーの言い分からは運営には求めている人物像がありそれに合致するプレイヤーを探しているようにしか聞こえない。
ゲーム、特に不特定多数のプレイヤーがプレイするオンラインゲームなんかでは多種多様な目標やプレイスタイルが推奨されている。
対してVDはプレイヤーに明確な目標達成を求めてきている。どちらかと言うとソロプレイ用のゲームに似ているように感じるが……
「フォー、VDをプレイしているプレイヤーは俺以外にもいるのか?」
『現時点ではその質問にお答えできません』
「現時点では?じゃあいつになったら教えてくれるんだ?」
『現時点ではその質問にお答えできません』
ふむ、無駄だな。絶対に「はい」を選ばされる選択肢と同じ雰囲気だ。
まぁプレイヤーに絶対に開示されない情報ではないという事が分かっただけでも収穫と考えるべきか。プレイ時間、あるいは何らかの条件を満たした時に教えてもらえるのを期待しよう。
「そっか、わかったよ。じゃあフォー、別の質問だ。俺はこれから何をすればいい?」
『何をすればいいか、ですか?それは私にはお答えしかねます。VDはプレイヤーが望むままにゲームをプレイすることを希望しています』
運営の意図に合わないプレイヤーは排除する癖に「プレイヤーが望むままに」ねぇ。高みから見下されているようで嫌な感じだ。
意識してあちら側の理想形に近づくプレイヤーではなく、素の状態で理想像に近いプレイヤーを探しているんだろう。
(気にくわない、めんどくさい。運営のご機嫌取りゲームなんてしたくねーよ)
というのが俺の本音だ。でもそんな理由でこのゲームを投げ出すなんて選択肢はない。
つい昨日から始めたというのに既に俺は一人のヒロインを攻略した。バキバキの童貞だったこの俺が浮気宣言させたんだぞ?そんな経験が普通に生きてできると思うか?
これまでの人生のように適当に過ごすよりこのゲームに飛び込む方が万倍楽しいに決まってる。だから多少の面倒はうまくやり過ごしてやろう。
(あいにくこっちはそこそこゲームが得意なんでな。お前らの理想を上回るプレイを見せてやろうじゃないか)
「了解だフォー。それなら俺はまずこの十和田マンションの制圧を目標にしたい。攻略チャートを一緒に考えてくれるか?」
『お任せください、マイマスター。このフォーがあなたのゲームプレイを全力でサポート致します』
スマイルマークを画面に表示させた彼女は少し弾んだ声でそう言った。案外ユーモアのある奴だな。お前ホントにAIか?
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